【安全入門】ベルトコンベヤ導入時に押さえる安全対策

ベルトコンベヤは多くの製造現場で稼働していますが、その便利さの裏で年間500件を超える労働災害が発生しています。

はさまれ・巻き込まれをはじめ、転倒や転落などが原因で重傷や死亡につながることもあり、安全対策を取っていなければ作業員が危険にさらされることになります。

「安全装置を設置しているから大丈夫」と思っていても、動作や手順のわずかなミスで重大事故は起こります。

本記事では、ベルトコンベヤで発生している労働災害の発生件数や、事故件数の多いベルトコンベヤの作業を解説します。

ベルトコンベヤの事故を防ぐ8つのチェックリストも紹介しているので、作業員の安全を守るためにも、現場で実践できているかを確認してみてください。

コンベヤで発生した労働災害の事故事例

コンベヤでは、はさまれや巻き込まれ、激突、転落などが原因で労働災害が起きています。

本記事で紹介する事故の件数や割合は、ベルトコンベヤのほか、チェーンコンベヤやローラコンベヤの事例も含まれています。コンベヤの種類や労働災害の件数は以下の通りです。

機械の種類休業4日以上死亡
ベルトコンベヤ562 (67.9%)9.6 (75.6%)
チェーンコンベヤ46 (5.6%)0.4 (3.1%)
ローラコンベヤ135 (16.3%)0.2 (1.6%)
スクリューコンベヤ37 (4.5%)0.8 (6.3%)
バケットコンベヤ12 (1.4%)0.5 (3.9%)
ベルト&ローラ14 (1.7%)0.0 (0.0%)
ベルト&チェーン0 (0.0%)0.1 (0.8%)
その他のコンベヤ22 (2.7%)1.1 (8.7%)
合計828 (100.0%)12.7 (100.0%)
出典:J-STAGE「コンベヤを対象とした労働災害分析-労働損失日数の活用によるリスクの定量的評価-

データは2000年~2009年の10年間の平均値

業界別の発生件数

業界別のコンベヤ事故の発生件数は、以下の通りです。

業種休業4日以上死亡
食料品製造業282 (23.7%)0.5 (3.0%)
繊維工業、衣服その他の繊維製品製造業7 (0.6%)0.2 (1.3%)
木材・木製品製造業107 (9.0%)0.3 (1.9%)
家具装備品製造業4 (0.3%)0.0 (0.0%)
パルプ・紙加工品製造業14 (1.2%)1.2 (7.2%)
印刷・製本業4 (0.3%)0.0 (0.0%)
化学工業11 (0.9%)0.2 (1.1%)
窯業土石製品製造業66 (5.5%)1.5 (8.9%)
鉄鋼業8 (0.7%)0.0 (0.0%)
非鉄金属製造業19 (1.6%)0.1 (0.7%)
金属製品製造業59 (4.9%)0.2 (1.3%)
一般機械器具製造業54 (4.5%)0.9 (5.4%)
電気機械器具製造業44 (3.7%)0.6 (3.7%)
輸送用機械器具製造業29 (2.4%)0.1 (0.6%)
電気・ガス・水道業2 (0.2%)0.0 (0.0%)
その他の製造業49 (4.1%)0.6 (3.7%)
小計(製造業)778 (65.3%)9.7 (58.1%)
鉱業5 (0.4%)0.0 (0.0%)
建設業68 (5.7%)2.4 (14.4%)
輸送交通業19 (1.6%)0.4 (2.4%)
貨物取扱業14 (1.2%)0.3 (1.8%)
農林・畜産・水産業38 (3.2%)0.6 (3.6%)
小計(第1次・第2次産業)199 (9.3%)3.7 (22.2%)
商業23 (1.9%)0.0 (0.0%)
清掃・と畜業78 (6.5%)0.2 (1.2%)
その他の第3次産業130 (10.9%)1.5 (9.0%)
小計(第3次産業)184 (15.4%)1.7 (10.2%)
その他31 (2.6%)0.7 (4.2%)
合計1,192 (100.0%)16.7 (100.0%)
出典:J-STAGE「コンベヤを対象とした労働災害分析-労働損失日数の活用によるリスクの定量的評価-

上記の通り、コンベヤの事故は製造業で多発しています。これは、コンベヤを使用する機会が他の産業と比べて多いからだと考えられます。

事故で負った怪我の種類

コンベヤ事故で負った怪我の種類と件数は、以下の通りです。

事故の型休業4日以上死亡
はさまれ・巻き込まれ999 (83.8%)15.1 (90.4%)
激突され・激突40 (3.4%)0.4 (2.4%)
墜落・転落27 (2.3%)0.8 (4.8%)
転倒61 (5.1%)0.2 (1.2%)
飛来・落下23 (1.9%)0.0 (0.0%)
切れ・こすれ26 (2.2%)0.0 (0.0%)
崩壊・倒壊8 (0.7%)0.0 (0.0%)
無理な動作5 (0.4%)0.0 (0.0%)
踏み抜き1 (0.1%)0.0 (0.0%)
高温・低温1 (0.1%)0.1 (0.6%)
感電1 (0.1%)0.1 (0.6%)
合計1,192 (100.0%)16.7 (100.0%)
出典:J-STAGE「コンベヤを対象とした労働災害分析-労働損失日数の活用によるリスクの定量的評価-

ほとんどの事故が、はさまれ・巻き込まれで発生しています。また、死亡事故の90%以上が、はさまれ・巻き込まれによるものであり、大きな事故につながりやすいこともわかります。

事故件数の多いベルトコンベヤの作業

事故件数の多いベルトコンベヤの作業には、以下のようなものがあります。

  • 搬送物や異物の除去
  • 清掃
  • 保守・点検
  • 荷積み・搬送物の移動
  • 設備の調整

1. 搬送物や異物の除去

搬送物や異物を取り除く際、ベルトの継ぎ目やローラ部に衣類や身体の一部が巻き込まれ、骨折や切断に至る事故があります。

搬送物や異物の除去に起因する災害は、コンベヤ事故の25.9%、死亡事故の18.0%を占めます。運転中に起こる事故の中では、最も高い事故率です。事故防止のための有効な手段には、コンベヤを停止させてから搬送物を除去することが挙げられます。

2. 清掃

ベルトコンベヤの清掃中に、運転を止めずにベルト表面を布やヘラでふき取る、あるいは掻き取るといった行為が原因で巻き込まれる事故が発生しています。ベルトやローラに手や衣類が巻き込まれると、骨折や切断などの重傷を負う恐れがあります。身体が直接巻き込まれなくても、掃除用具に引っ張られて身体も巻き込まれることがあるため、注意が必要です。

清掃作業に起因する災害は、コンベヤ事故の11.9%、死亡事故の9.6%を占めます。清掃する際はコンベヤを停止させ、電源を遮断してから作業することで事故を防止できます。

3. 保守・点検

ベルトコンベヤの保守や点検を運転中に行った際、回転部やベルトの継ぎ目に身体が巻き込まれる事故が発生しています。動作確認や異音の点検のために近づいた際、手袋や身体の一部がベルトに巻き込まれ、骨折や切断などの重傷につながることがあります。

また、保守・点検のための移動も、事故の起きやすい工程の一つです。たとえば、高所にある設備へアクセスしようとしてベルトコンベヤに乗り、転落して怪我を負う事例があります。

保守・点検中に発生する災害は、コンベヤ事故の7.2%、死亡事故の13.2%を占めます。点検の際には、必要以上に装置へ近づかず、コンベヤを停止させてから作業することが重要です。

4. 荷積み・搬送物の移動

ベルトコンベヤの運転中に、搬送物を移動させようとして近づいた際に発生する事故があります。荷積みや搬送物の調整の際に、衣類や身体の一部がベルトやローラ部に挟まれ、挫滅や骨折といった怪我を負います。

また、通常とは異なる用途で使用することも、事故が発生する原因の一つです。 たとえば、搬送物を持って移動する際、床付近に設置されたコンベヤに乗り、転倒して怪我を負う事例があります。

搬送物の移動に関連する災害は、コンベヤ事故の3.7%、死亡事故の1.2%を占めます。事故を防止するには、作業は目視による安全確認ができる状態にし、無理のない重量を搬送することが重要です。また、必要に応じてコンベヤを停止させてから搬送物を移動させると安全性が向上します。

5. 設備の調整

ベルトコンベヤの運転中に、ベルトの位置や運転条件を調整しようとして巻き込まれる事故が発生しています。テンションの調整や搬送速度の調整のために手を伸ばした際、ベルトやプーリ部に手袋や衣類が巻き込まれ、骨折や切断といった怪我を負う事例があります。

設備の調整に関連する災害の割合は、コンベヤ事故の3.7%、死亡事故の6.0%です。調整の際には、ローラ部に巻き込まれにくい服装にすることで安全性を高められます。

ベルトコンベヤの事故を防ぐ安全対策チェックリスト

以下の8つを確認し改善することで、ベルトコンベヤの事故が起きる可能性を低減できます。

  1. 非常停止ボタンの位置は適切か
  2. 非常停止装置は作動するか
  3. 回転部分は安全カバーで覆われているか
  4. 危険箇所には注意標識があるか
  5. 搬送物が落下しやすい場所はないか
  6. 定期的に清掃されているか
  7. 設備に劣化や損傷はないか
  8. 従業員が危険箇所を理解しているか

1. 非常停止ボタンの位置は適切か

非常停止ボタンは、事故発生時に被害を最小限に抑えるための重要な装置です。非常事態の発生時に、すぐに押せる位置になければ、軽傷で済む事故が重傷や死亡につながる恐れがあります。

作業者の立ち位置や動線を考慮し、どの位置からでも押せる場所に配置することが大切です。複数ラインがある場合は、各ラインに独立した停止装置を設けることで安全性が向上します。

2. 非常停止装置は作動するか

非常停止装置は、緊急時に作動しなければ意味がありません。作動しない場合、機械が止まらず事故が拡大し、重傷や死亡につながる恐れがあります。

定期的に作動テストを行い、非常時に動作するかを確認することが重要です。粉塵や油が多い現場では、防塵・防油仕様のスイッチを採用するなど、環境に応じた仕様にすることで確実性を上げられます。

3. 回転部分は安全カバーで覆われているか

ベルトやローラーなどの回転部分は、安全カバーで覆うことで挟み込みや巻き込み事故を防げます。作業着や手袋が巻き込まれ、骨折や切断といった怪我を負うケースも少なくありません。開閉できる構造のカバーを設けることで、点検を容易にしつつ稼働時の事故を防止できます。

4. 危険箇所には注意標識があるか

危険箇所には、誰が見てもすぐに危険を認識できる注意標識を設置することが重要です。標識がないと、新人や不慣れな作業者が危険性を認識できずに危険部に接触し、怪我を負うリスクが高まります。

標識の視認性を向上するには、JISに準拠したデザインや色を使用し、色あせや剥がれがないかを定期的に確認することが大切です。

参考:日本保安用品協会「改正JIS Z 9101・JIS Z 9103の概要及び解説

5. 搬送物が落下しやすい場所はないか

搬送物を落下しやすい場所に放置すると、落下物が作業者を直撃し、挫滅や骨折などの怪我につながります。特に、重量物を取り扱っている場合は、重症化しやすいため注意が必要です。

落下を防ぐためには、ガイドフェンスや側板を設けたり、搬送物の重心や振動条件に合わせて適切なベルト幅にしたりする必要があります。

6. 定期的に清掃されているか

粉塵や油脂などの汚れが蓄積すると、スリップや火災、機械の誤作動につながります。定期的に清掃し、作業者が危険な状態とならないようにする必要があります。

また、清掃時の安全性を確保するためには、ロックアウト・タグアウトを徹底することが重要です。可動部が完全に停止したことを確認してから清掃することで、清掃時の災害も防止できます。

7. 設備に劣化や損傷はないか

設備の劣化や損傷を放置すると、破損による異常振動やベルト外れを引き起こします。ベルトの破損や異常振動が起こると、ベルトが切れて部品が飛散し、作業者に衝突して怪我を負うリスクがあります。

事故を防ぐには、日常的に異音や振動、温度を確認し、摩耗した部品は早めに交換することが重要です。また、使用年限を明確にし、時期に応じて点検や交換をすることで事故を防げます。

8. 従業員が危険箇所を理解しているか

従業員が危険箇所を理解していないと、どこで何に注意すべきかがわかりません。導入時や人員変更時には必ず安全教育を実施し、現場で実際の危険箇所を示しながら説明することが効果的です。

また、事前に危険性を認識することで安全意識を高められます。これは「労働安全衛生規則」においても求められている基本事項です。

事故を防止するには、安全カバーを取り付けたり定期的に点検したりすることも重要ですが、作業員への安全教育も忘れずに行うようにしましょう。

ベルトコンベヤの安全対策事例2選

マルヤス機械では、安全構造のコンベヤの採用やリスクアセスメント結果の提供を通してベルトコンベヤの安全対策を講じています。ここでは、弊社が実践している安全対策を2つご紹介します。

1. テールローラの回転部分が見えない安全構造のコンベヤを採用

マルヤス機械では、巻き込まれ事故が起こりやすいテールローラに作業者が直接触れられないよう、回転部分が外部から見えない構造のコンベヤを販売しています。

たとえば「TBC」は端部にフラット処理が施されており、作業時に巻き込まれるリスクが低い構造です。また、ベルト裏側にあるV字状のサンにより蛇行が起こりにくく、ベルトの逸脱や搬送物の落下による事故も抑制できます。

マルヤス機械「TBC

2. メーカーが実施したリスクアセスメント結果の提供

安全対策を適切に講じるためには、作業者側だけでなく、機械メーカーが想定している危険源や推奨する対策を把握しておくことも重要です。

マルヤス機械では、メーカーが実施したリスクアセスメントの結果を取扱説明書に掲載する取り組みを開始しています。これにより、ユーザーは以下のような安全情報を導入時から確認できます。

  • 想定される危険源
  • 発生し得る事故シナリオ
  • 推奨される安全対策
  • 点検・保守における注意点

これらの情報は、現場で実施するリスクアセスメントや安全教育の資料に活用でき、導入時の安全性を高められます。マルヤス機械では、今後も対象機種の拡大を予定しており、安全情報をより充実させていく予定です。

コンベヤ点検シートをダウンロードする

まとめ|安全対策を徹底してベルトコンベヤの事故を防ごう

ベルトコンベヤの安全対策は、設備設計や運用ルールだけでなく、作業者一人ひとりの意識と教育によって成り立ちます。

非常停止装置や安全カバーの整備に加え、危険箇所の周知や定期的な教育を徹底することで、現場の安全基準は大きく向上します。

本記事で紹介したチェックリストを参考に、自社の安全管理体制をもう一度見直してみてください。

また、「コンベヤ点検シート」では、弊社が実際に点検作業で使用しているシートをダウンロードできます。

記事中で紹介したチェックリストだけでなく、細部の安全性まで確認したい方は、資料をダウンロードしてベルトコンベヤの安全対策にお役立てください。