倉庫火災を起こさない・被害を広げない——最新ガイドラインとコンベヤ周りの防火対策
生産設備や物流設備などにおいて、防火対策と安全確保は喫緊の課題です。とくに、倉庫火災は粉じん・摩耗・発熱・電装不良など“コンベヤ周り”から広がりやすく、2017年の埼玉県三芳町での倉庫火災もまた被害拡大の一端を担いました。
三芳町の倉庫火災を契機に、消防庁は「埼玉県三芳町倉庫火災を踏まえた防火対策及び消防活動のあり方に関する検討会報告書」を公表し、2025年には消防ガイドラインを提示しました。本記事では、消防ガイドラインのポイントやコンベヤを抱える生産者が採るべき対策について現場の観点から解説します。
防火対策の背景: 埼玉県三芳町での倉庫火災
防火対策の見直しの背景となった事件が、埼玉県三芳町で2017年に発生した倉庫火災です。本火災では、消火活動に12日を要しました。
首都圏では都心を中心とした放射状の高速道路網が整備され、物流倉庫が増加するとともに倉庫自体も大規模化しました。三芳町の倉庫火災はこうした状況下で発生した大火災でした。
消防庁は三芳町倉庫火災を受けて、「埼玉県三芳町倉庫火災を踏まえた防火対策及び消防活動のあり方に関する検討会報告書(以下、報告書)」を作成しました。報告書には、出火元や原因が詳しく記載されています。
報告書が明らかにした出火元
報告書には、物流倉庫1階の端材室が出火元であることが記載されています。その後の調査で、PLC制御盤がスパークして燃え、周辺の廃段ボールへと燃え移ったことが明らかになりました。出火元となった1階部分の延焼は限定的でしたが、端材室上部開口部から上の階へと火の手が燃え広がったと推測されています。
報告書が明らかにする防火対策の不備
報告書から、設備が不十分だった防火対策のポイント3点を読み解くことが可能です。
スプリンクラーの不備
報告書は、スプリンクラーや換気対策の必要性を強調しています。三芳町の倉庫火災では、スプリンクラーは1階に設置されていましたが、2階、3階には設置されていませんでした。結果として、火災時にはスプリンクラーが十分に機能しませんでした。こうした背景から、出火すると大きな火災につながりやすい大規模倉庫では、スプリンクラーの設置が求められます。
防火シャッターの作動を防いだコンベヤ
三芳町の倉庫火災では、防火シャッターの動作不良が原因の一つとして指摘されています。通常、大規模な建築物には防火シャッターの設置について建築基準法などの法令で規定されています。火種が生じた場所から燃焼が拡大しないよう防火シャッターにより防火区画を形成するのが基本ですが、三芳町の倉庫火災では防火シャッターの約6割が正常に作動しませんでした。
防火シャッターが閉鎖しなかった原因として、防火シャッターの閉鎖時にコンベヤや物品と干渉したことが報告書で指摘されています。三芳町の倉庫火災では、こうした干渉部分の対策が不十分でした。
作動しなかった火災報知信号
報告書は、防火シャッター周辺の電気設備の不備についても指摘しています。三芳町の倉庫火災では、防火シャッターを閉鎖するための火災報知信号の一部が作動しなかったため、信号がシャッターまで送信されませんでした。
消防ガイドラインのポイントとマルヤス機械の対策
「大規模倉庫における効果的な防火管理に関するガイドライン(以下、消防ガイドライン)」には、倉庫での防火対策が明記されています。この消防ガイドラインは、三芳町の倉庫火災を受けて消防庁が2025年に作成しました。以下では、消防ガイドラインに記載された対策の詳細や、マルヤス機械が提供可能な防火対策について紹介します。
非常時でも機能を保持するコンベヤの実装
消防ガイドラインには、防火シャッターが作動しない場合には手動で閉鎖できるよう「フェイルセーフ機能」の実装を防火対策の一つとして挙げています。また、防火シャッターとマテハン機器ならびにコンベヤとの連動設備の設置が防火対策の取り組み事例として紹介されています。
防火シャッター周辺のコンベヤの実装方法として、エアシリンダ方式とロック方式の2種類が標準的な選択肢です。
エアシリンダ方式
エアシリンダ方式では、コンベヤの先端にローラーを設置し、先端部分のエアシリンダが折れ曲がるよう設計されています。この方式では、火災報知信号を受信すると、防火シャッターが降りる前にコンベヤの先端部が折れ曲がり、干渉しない仕組みが採用されています。
電気設備が停止した場合でもシリンダが作動するよう実装可能です。たとえば、大規模火災の場合には、電気ケーブルが燃焼した結果、制御盤の電源が喪失する恐れがあります。エアシリンダ方式では、エアの圧力低下でシリンダを解放させることもできるため、電源トラブルへの対策となります。
ロック方式
ロック方式では、防火シャッターの降下により上部から力が加わると、一定の負荷で折れ曲がるよう設計されています。ロック方式の特徴として、火災報知信号を受信しなくても作動することが挙げられます。
コンベヤ連動部を選定する際の注意点
コンベヤ連動部の選定に関する注意点として、オプションの選定ミスが挙げられます。
エアシリンダ方式の場合、エアシリンダ方式では、コンベヤのレイアウトに応じたシリンダの選択が重要です。供給されたエアが抜けると位置が戻る仕組みのシリンダなど、複数のシリンダが用意されています。しかし、シリンダの選択を誤ると、シャッターが完全に閉鎖しない恐れもあります。
ロック方式の場合、過負荷検知機能を搭載した防火シャッターとの組み合わせに注意が必要です。防火シャッターが降下しコンベヤの折れ曲がり部に干渉した際に、コンベヤが折れ曲がる前に過負荷検知機能が作動します。そのため、防火シャッターが停止したり、上昇したりするなど、閉鎖されない恐れがあります。こうしたことから、防火シャッターの仕様についても詳細を確認し、仕様に見合った設計を施す必要があります。
日々の点検から始まる防火対策
消防ガイドラインには、防火シャッターの日常点検や可燃物がないかの巡回計画の必要性について記載されています。日常点検により、火災時に防火シャッターが閉鎖しない等の障害を未然に防ぐことが可能です。消防ガイドラインには、照明器具や配線、防火シャッターの点検について記載されています。たとえば、防火シャッターを降ろしたり、避難経路を確保するためのコンベヤの跳ね上げを確認するなど、日々の点検が重要です。
コンベヤ関連の日常点検の注意点
消防ガイドラインには、個別の可能性についてまで詳しく記載されていません。しかし、さまざまな可能性を想定するのが重要です。電源の喪失やそのタイミングが問題になるケースも想定されるため、これらを考慮した対策が求められます。
また、消防ガイドラインにも記載されているように、防火シャッターが降下する空間に物品が置かれていないかについても点検のポイントとして挙げられます。
避難経路の確保
消防ガイドラインには、避難経路の冗長化や停電時を想定した避難経路の確保についても記載されています。また、倉庫内に置かれた多数の物品により視界がさえぎられたために、避難不能に陥るリスクも無視できません。そのため、物品やマテハン機器等の設備が避難の障害とならないよう避難経路を確保する必要があります。
火事になった瞬間に停電するリスクも考えられます。東日本大震災の際には、生産設備内からの脱出や避難に手間取った企業もあったようです。倉庫火災の際も同様のアクシデントが発生する可能性があります。消防ガイドラインには避難方向を示すピクトグラムの活用や、避難マニュアルの作成などが記載されていますが、避難訓練の徹底が求められます。
避難経路についての注意点
コンベヤが張り巡らされた倉庫内では、コンベヤが避難の妨げになる可能性があります。避難の際にコンベヤの下を通過しようとすると、頭部をぶつけて怪我をすることも起こりえます。跳ね上げ構造のコンベヤの設計やコンベヤ上へのオーバーブリッジの導入などにより導線を確保することで、避難を意識したコンベヤラインのレイアウト設計することが望まれます。
安全で確実な避難が行えるコンベヤラインにするためには、定期的な避難訓練の実施が有効です。避難のための導線が確保されているかや荷物などが避難の障害になっていないか、逃げ遅れた従業員を発見できるかなど、多面的にチェックを実施すると良いでしょう。
避難経路を確保する跳ね上げ式コンベヤ
倉庫内で避難動線を確保するためには、非常時に人や台車が安全に通行できるスペースを確保する必要があります。マルヤス機械では、通常の搬送ラインを維持しながら必要時のみ通路を開放できる 跳ね上げ式コンベヤ を提供しています。


電気関連の出火を防止
消防ガイドラインには、電気関連の出火防止についても明記されています。
倉庫は面積が広く清掃が行き届かない場所があり、段ボールなどの紙粉による埃が原因でスパークが比較的発生しやすい状況にあります。また、倉庫内をフォークリフトやハンドリフトが行きかう場合、保護されていない配線を繰り返し通過することでケーブルが断線し、出火につながる恐れもあります。
マルヤス機械が提供する防火対策の総合ソリューション
マルヤス機械でコンベヤを導入したお客様や導入を検討しているお客様が注意すべきポイントと、提供できるソリューションを紹介します。
新規・既存のお客様が注意すべきポイント
これから設備を導入されるお客様は、以上で述べた防火対策を施して、コンベヤや防火シャッター等のレイアウト設計を提供可能です。一方、すでに設備が導入されているお客様についても、対策が不十分であることが考えられるので、一度点検することをご検討ください。
対策が十分にされていない場合には、防火シャッター用のローラーの追加や、コンベヤの一部改造・入れ替えで対応することが可能です。
消防ガイドラインを深堀りしたソリューションを提供するマルヤス機械
マルヤス機械では、消防ガイドラインに明記された防火対策だけでなく、追加で対応可能なオプションについても、総合的にサポート可能です。 倉庫の竣工後、消防用設備等の検査が消防法にもとづき実施されます。避難経路や電気プラグの具体的な絶縁処理など、消防ガイドラインには明記されていなくても、コンベヤ周辺で注意すべきポイントがあります。消防庁から指摘を受けるかどうかは流動的ですが、こうした課題に対応できるソリューションをマルヤス機械から提供できます。