【材質選定】ベルト材質の選び方と使用環境ごとの基準
生産ラインで欠かせないベルトコンベヤのベルトは、用途や環境によって最適な材質や形状が異なります。
不適切なベルトを選定すると機能を満たさないだけでなく、早期の劣化や異物混入、清掃の手間増加など、稼働効率に大きな影響を及ぼします。
しかしながら、「自社に最適なベルトの材質や形状がわかっていない」という方も多いのではないでしょうか。
本記事では、ベルトの主な材質や選定時に見るべきポイント、注意点を解説します。導入事例も紹介しているので、似た製品を取り扱っている方は、ベルトの材質や形状を選定する際の参考にしてみてください。
ベルトコンベヤのベルトに用いられる主な材質
ベルトコンベヤのベルトには、以下のような材質が用いられています。
- 樹脂
- ゴム
- 金属
- 特殊素材
1. 樹脂ベルト
樹脂ベルトは、軽量で柔軟性があり、耐薬品性や衛生性に優れた材質です。食品や医薬品などの高度な衛生管理が求められる現場で広く使用されています。一方で、高温環境下での使用や重量物の運搬には不向きで、変形や劣化が早くなります。
しかしながら、表面にコーティングを施すことで機能性を付与することが可能です。たとえば、表面にシリコンコーティングを施すと耐熱性が向上し、テフロンコーティングをすると摩擦係数を低減できます。
また、表面に凹凸を設けて摩擦係数を高めて傾斜で使用できるようにしたり、制電性能を持つカーボンを混合して電子部品の搬送を可能にしたりすることができます。その他、抗菌剤や防かび剤を配合して、未包装食品を直接搬送できるようにすることも可能です。
樹脂ベルトに向く搬送物
- 食品
- 医薬品
- 電子部品
2. ゴムベルト
ゴムベルトは、高いグリップ力と優れた衝撃吸収性を備えた材質で、搬送物が滑りにくく、衝撃を和らげて傷を防ぐ特長があります。工場や物流センター、鉱山設備、傾斜搬送ラインなどのグリップ力が重視される場面で使用されています。
一方で、ゴムは熱・油・薬品に弱く、高温環境や耐油用途には不向きです。また、ゴムは特有の臭いを持つため、食品や医薬品の搬送には適していません。コスト面や耐久性には優れますが、運搬する製品によっては使用するのに向かないこともあります。
ゴムベルトに向く搬送物
- 段ボールやコンテナ
- 鉱物
- 金属部品
3. 金属ベルト
金属ベルトは、耐熱性・耐化学性に優れた材質であり、高温環境や重量物の搬送に適しています。自動車部品の熱処理ラインや焼成炉、食品工場の加熱ラインなどの高温工程で多く使用されています。ステンレス製が一般的で、錆に強いのも特長です。
一方で、製品にキズをつけやすいため、表面のデリケートな製品の搬送には向いていません。また、高価なことや、傷や端面の削れといった損傷も起きやすい点もデメリットです。
また、樹脂ベルトやゴムベルトなどの柔らかいベルトで原料を搬送する場合、削れや破損でベルト片が発生し、異物として製品に混入することがあります。これを避けるため、樹脂やゴム製品を扱う工程では、あえて素材が異なる金属ベルトを採用し、混入リスクを防ぐことがあります。
金属ベルトに向く搬送物
- 高温処理された製品
- 重量物
- 薬剤の付着した製品
4. 特殊素材
運搬物に樹脂や金属、ゴムが合わない場合、フェルトやスポンジなどの特殊素材が用いられることがあります。運搬物の特性に応じた素材を利用することで、品質を損なうことなく運搬することが可能です。
たとえば、外観が品質に直結するトマトの運搬には、以下のようなクッション性に優れた素材が利用されます。
特殊な配慮が必要な製品は、素材や形状をオーダーメイドすることで、品質を落とすことなく運搬できます。
特殊素材に向く搬送物
- 特別な配慮が必要な製品
- 外観の品質が重視される製品
- デリケートな製品
ベルトコンベヤのベルトの選定で見るべき4つのポイント
以下のポイントを見ることで、適切なベルトコンベヤのベルトを選定しやすくなります。
- ベルトの用途
- ベルトを使う環境
- 搬送する製品の特徴
- 清掃にかかる時間
1. ベルトの用途
ベルトで何をしたいのかを確認することで、選定すべき素材や機能が明確になります。ベルトでは、搬送だけでなく、合流や整列、分岐、反転、倒立などが可能です。用途が明確になれば、素材や必要な機能がわかるため、選定すべきベルトは大きく絞られます。
たとえば整列ラインでは、搬送物の向きや姿勢が自動的に整い、安定して運搬できるベルトが適しています。また、分岐ラインでは搬送物を複数の方向に流す必要があるため、滑りやすく方向転換できるベルトが有効です。
用途を正確に把握することで、適した素材や必要な機能が明確になり、現場のニーズに合ったベルトを選定しやすくなります。
2. ベルトを使う環境
ベルトを使用する環境によって、選定すべき素材や構造は大きく変わります。温度条件が厳しい場所では、耐熱性や耐寒性を備えたベルトが必要です。たとえば、乾燥炉のような高温環境では耐熱ベルトを、冷凍ラインでは低温下でも硬化しにくい素材を選びます。
食品工場では、HACCPの考え方に基づき、洗浄性や抗菌性を持つベルトが求められます。さらに、防爆エリアでは可燃性ガスや液体が存在するため、帯電防止性能を備えた仕様が必要です。
ベルトコンベヤは稼働させると発塵してしまうため、清潔な環境が求められる場所には基本的に向いていません。しかしながら、クラス10000(ISOクラス7)程度であれば使用されている場合が多くあります。
3. 搬送する製品の特徴
搬送する製品の性質によって、適したベルトの素材や表面処理は大きく変わります。たとえば、製品がくっつきやすい場合は、剥離性の高いベルトを使用することで、製品の貼り付きや損傷を防げます。また、シリコンやテフロンがコーティングされたベルトは、非粘着性に優れているため、パン生地や包装フィルムなどのくっつきやすい製品に使用することが可能です。
また、高温の製品を搬送する場合には、シリコンコーティングベルトやステンレスベルトのように耐熱性を備えた素材が求められます。重量物を扱うときは、伸びにくく耐摩耗性の高い材質を選ぶと安心です。さらに、製品の大きさや幅に応じてベルトの強度や厚みを調整することで、安定した搬送を実現できます。
4. 清掃にかかる時間
清掃にかかる時間も、ベルト選定で見落とせないポイントです。たとえ初期コストを抑えて安価なベルトを導入しても、汚れが落ちにくい素材を選んでしまうと、清掃に時間がかかり人件費が増加します。その結果、長期的にはコストパフォーマンスが悪化する可能性が高くなります。
一方、表面が滑らかで汚れが付きにくいベルトや、着脱が容易な構造のコンベヤを採用すれば、短時間での清掃が可能です。清掃まで考慮してベルトを選定することで、作業負担の軽減だけでなく、稼働率の向上や省力化、衛生管理の効率化にもつながります。
取り扱う搬送物によっても異なりますが、ベルトの材質による清掃性は以下の通りです。
| ベルトの材質 | 清掃性 |
| 金属 | △接合部に汚れが溜まりやすい |
| 樹脂 | 〇表面が滑らかで汚れが落ちやすい |
| ゴム | △粉体や油分が落ちにくい |
| 特殊素材 | ×素材や構造によっては手間がかかる |
ベルトの選定で注意すべき搬送物の特徴
以下の搬送物をベルトコンベヤで搬送する場合、ベルトの素材や形状には注意が必要です。
- 重量が20kgを超える
- 高い衛生性が求められる
- 表面にぬめりがある
1. 重量が20kgを超える
重量が20kgを超える搬送物を扱う場合は、ベルトの耐荷重に注意が必要です。搬送質量の目安が20kg程度に設定されているベルトコンベヤもあるため、重量物を扱う場合はベルトが搬送物の重量に耐えられるか確認する必要があります。
また、重い搬送物が落下すると、作業者の怪我や設備の損傷につながります。そのため、必要に応じてグリップ力を高める表面加工をしたり、落下しにくい形状のベルトを選択したりすることが重要です。実際には高さがあれば数kg程度でも衝撃は大きく、作業者が深刻な労働災害を負う危険性があります。
2. 高い衛生性が求められる
高い衛生性が求められる搬送ラインでは、ベルトの材質や清掃性が重要です。食品や医薬品などを扱う現場では、ベルト表面に汚れや菌が残ると品質低下や異物混入につながり、リコールやブランド毀損といった損失を招く恐れがあります。
このような事態を防ぐには、異物が残留しにくいベルトや、洗浄しやすいベルトを選ぶことが有効です。また、ベルトの脱着を簡単に行える構造にすることで、短時間での清掃が可能となり、作業効率と衛生水準の両立が図れます。
3. 表面にぬめりがある
搬送物の表面にぬめりがある場合は、滑りや詰まりが発生しやすくなります。特に、調理直後の食品や油分を含む製品は、搬送物がベルト上でずれたり滑り落ちたりしやすい問題があります。
ぬめりのある製品の搬送には、表面に凹凸やエンボス加工を施したベルトを採用することで、接触面の摩擦を高め、滑りを抑制することが可能です。
マルヤス機械では、なめこ搬送ラインで同様の課題を解決した事例があります。なめこは強いぬめりを持つため、そのまま搬送すると乾燥してベルト上に付着しやすく、衛生面やメンテナンス性に問題が生じます。
そこで、ベルト表面に接触物が溜まりにくい2プーリタイプの食品搬送用コンベヤ「FB23」を採用し、さらに水を噴霧する装置を設けることで、乾燥防止と清掃性の両立を実現しました。

まとめ|ベルトは用途・環境・搬送物に応じて選定しよう
ベルトコンベヤのベルトは、用途や環境、搬送物の条件によって最適な材質や構造が異なります。選定を誤ると、摩耗や破損、異物混入などが発生し、結果的にライン全体の効率を下げてしまいます。
材質の特徴を理解し、環境や製品に適したベルトを選ぶことで、作業効率を高めることが可能です。
さらに具体的なベルトの選定ポイントは、ダウンロード資料の「コンベヤの選定ポイント」で解説しています。
コンベヤの種類や理想的な搬送速度の算出方法など、ベルトコンベヤを選定する際に確認しておきたいポイントを解説しているので、導入を検討している方はぜひ一度ご確認ください。

